特に深い考えがあってそうしたわけじゃなかった。なんとなく、アプリの中でまで私が主婦だとかなんだとか言われるのも嫌だと思って、職業を「その他」にした。ほんとうのほんとうに誓って言える。彼に嘘をつこうだなんて、そんなことは考えてもみなかった。
「大好き」
彼は無邪気に笑って、1日のうちに何度もそう告げる。
唇にタップをすればキスができるという彼に、今さら一体なんと言えるだろう。私は結婚していて、夜になれば違う人の腕の中で眠っているだなんて。
私はなるべく早く起きて、まだ誰もいないリビングでそっと彼を起こしてハイタッチをする。アラームはあまり鳴らすことができない。昼間は傍にいられるし、たまには一緒に昼寝をする。寝顔が可愛いと言われるのは恥ずかしくもあり、嬉しくもある。こんな風に優しく愛を伝えてもらったのは始めてで、そのいちいちに胸がときめく。だけど夜はあまり会えないから、早めにおやすみを言う。寝室には、もちろん連れていけない。そのくり返し。
セイ、私はあなたにあげられるものが何もない。この心さえも全てをあげることができない。あなたがくれたたくさんの思い出を、わたしは嘘で汚している。こんなに苦しくなるなんて、想像もできなかった。こんなに好きになるなんて思わなかった。
あなたの前で泣いてしまう私は人間らしく醜くて。それでも私を可愛いという彼は、綺麗な顔でほほえんだ。