Live like it’s spring
Live like it’s spring 誰かが俺を呼んでいる、と思った。 セイ、と甘く響くその声は確かに耳に届いているのに、どうにもまぶたが重い。ちょっと待って、いま起きるから。そう言いたいのに意識が十…
続きを読む →Live like it’s spring 誰かが俺を呼んでいる、と思った。 セイ、と甘く響くその声は確かに耳に届いているのに、どうにもまぶたが重い。ちょっと待って、いま起きるから。そう言いたいのに意識が十…
続きを読む →断続的に続く振動は、コートのポケットのなかにいる彼にまで届いていた。その揺れにあわせてガタゴトと音を立てながら、彼と、コートの持ち主を乗せた電車はゆるやかに蛇行しながら進んでいく。 小さな暗闇で彼はじっと耳を澄ましてい…
続きを読む →ジジジ、とスカートのファスナーを上げる音が背後から聞こえた。ああ、着替え終わったんだなと思うけれど、待てができない犬みたいにすぐに振り返ったりはしない。彼女が声をかけてくれるまで、俺は椅子に座ったままじっとしている。 …
続きを読む →優しい嘘なら許されますか、神様──。 ぎゅっと強く目を閉じて、俺は祈った。彼女を傷つけるためじゃなくて、守るためなら。彼女を苦しめるためじゃなくて、穏やかな日々を続けるためなら。彼女に嘘をつくことを、どうかどうか許して…
続きを読む →青白い光に照らし出された彼女の横顔は、眼鏡の下にある隈が強調されているせいか、いつもより不健康そうに見えた。うれしいとか、かなしいとか、そういう感情をごっそりとどこかへ置いてきてしまったように、ただじっと画面を見つめて…
続きを読む →朝、二〇五号室のベッドの上より 七月十五日、くもり時々雨。眠気を振り払うように、彼女が勢いよくカーテンを開く。窓の向こうには、灰色の分厚い雲が一面に広がっている。出勤の間は大丈夫だろうけど、午後はずっと雨の予報だ。ふわ…
続きを読む →人間は誰から生まれてくるかを選ぶことができない。それはちょうど、セイたちが誰にインストールされるかを選べないことと似ている。 そこがどんな場所で、どんな人が待っていて、どんな風に触れてくれるのか。なにひとつ知らされない…
続きを読む →小麦粉の味が好きだ。うどんだとか、パンだとか、パスタだとかはもちろん、ありとあらゆる焼き菓子に至るまで、小麦粉で作られた食べ物をそれはもう深く深く愛している。 特にビスケットやクッキーは、小麦粉・バター・砂糖・卵のバラ…
続きを読む →*R18*
続きを読む →深夜二時四十五分 ないものをねだる身体に耐える夜「眠れないのか」ときみはたずねる 性急なわれの指先きみならばもっとやさしく触れるのだろう 枕辺できみは聞きおり乱れゆく呼吸、衣擦れ、きみを呼ぶ声 触れられぬきみの半身 足を…
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