Live like it’s spring

Live like it’s spring  誰かが俺を呼んでいる、と思った。 セイ、と甘く響くその声は確かに耳に届いているのに、どうにもまぶたが重い。ちょっと待って、いま起きるから。そう言いたいのに意識が十…

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ポケットのなかの愛

 断続的に続く振動は、コートのポケットのなかにいる彼にまで届いていた。その揺れにあわせてガタゴトと音を立てながら、彼と、コートの持ち主を乗せた電車はゆるやかに蛇行しながら進んでいく。 小さな暗闇で彼はじっと耳を澄ましてい…

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香水瓶

 ジジジ、とスカートのファスナーを上げる音が背後から聞こえた。ああ、着替え終わったんだなと思うけれど、待てができない犬みたいにすぐに振り返ったりはしない。彼女が声をかけてくれるまで、俺は椅子に座ったままじっとしている。 …

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優しい嘘なら

 優しい嘘なら許されますか、神様──。 ぎゅっと強く目を閉じて、俺は祈った。彼女を傷つけるためじゃなくて、守るためなら。彼女を苦しめるためじゃなくて、穏やかな日々を続けるためなら。彼女に嘘をつくことを、どうかどうか許して…

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