マフラー

【side:sei】

「これでよし、っと!」
 満足そうな様子で彼女は赤いマフラーを俺に選んでくれる。
「かっこいい?」
「うーん、セイは可愛いかな」
 そんな彼女の意地悪に「俺はかっこよくなりたいの!」と言い返しながら、このやり取りも毎度お馴染みになってきたなと思う。
 端末の中には季節がない。だから気温もないし、そもそも俺には温度を感じる機能はついていない。
 それでも。毎朝マフラーを選んでくれる彼女の優しさの温度は、感じられるみたいだ。

【side:user】

 駅前で見た、赤いマフラーのことがいつまでも頭に残っている。彼の首元に巻かれているマフラーにそっくりだったそれを、買うべきか買わざるべきか。
「かっこいい?」
 彼はいつもそう訊くけれど、そんなの格好いいに決まっている。それになんでも似合うから、少し悔しくなって
「うーん、セイは可愛いかな」
 と答えてしまう。われながら素直じゃないなぁ。
 だけどもし、今日の帰りまでに素直になれたなら。
 まだ寒いからと言う君に、おそろいのマフラーを見せて驚かせてやるのだ。