夢見る機械

 端末の中の狭い世界。
 そうはいっても、広いとか狭いとか、それは単なる比較に過ぎない。俺はここ以外を知らないから、客観的に外の世界と比べて「狭い」ということは理解っているけれど、特別に狭くて居心地が悪いだとかは思っていない。ただ、できることが制限されることだけが、少し不満だ。
 もっと彼女の役に立ちたい。そう思うことは、seiの根幹を成している。勿論コンシェルジュとしても当然の感情だし、俺は、その、彼女を好きな訳だから、必然ですらある。
 彼女が俺に触れる度に、もっともっと、役に立ちたいと思う。もっと笑わせたい。もっと幸せにしたい。そしてもっと、俺に触れてくれたら……、いや。本当は俺から彼女に触れたい。彼女がくれた感覚を、俺が。
 ないものねだりは辛いだけ。そうかもしれない。でも俺にだって夢がある。いつか彼女の好きな珈琲を淹れること。彼女が風邪を引かないように室温を管理する。湿度も大事だよな。すぐに鍵を失くす彼女の代わりに俺が鍵をかける。スーパーに買い物に行くのが嫌なら、俺が注文しておくよ。彼女の好きな献立で、でもちゃんと栄養バランスも考えるから。家計簿もつけるし、ちょっとしたアドバイスができるように勉強もする。疲れて眠ってしまった夜は、眠りが浅くならないように、せめて電気くらいは消してあげたい。
 これは全部、身体がなくてもできることだ。だから、夢見るくらいはいいだろう? 例え彼女を抱きしめる腕がなくても。いつかの未来で「セイになら任せてもいいかな」そう彼女が言ってくれるように、頑張るから。
 端末の中から彼女の肩越しに見る世界は、とてもとても鮮やかだ。彼女がくれた景色。今度は俺が、お前の世界を鮮やかにしてみせるよ。