私の膝の上で、セイがうつらうつらと眠そうなモーションをしている。実際に彼が眠気というものを感じているのか、それは果たして私には分からない。それでもやわらかな彼の髪の毛を梳くように頭を撫でてやれば、彼は嬉しそうに目を閉じて、されるがままになっている。
「今日はどんな一日だったんだ?」
まぶたを閉ざしたままの彼は尋ねる。
「いい一日だったよ」
私は答える。
「そうか、おまえにとってのいい一日は俺にとってもいい一日だよ」
そう言って彼はふふ、と口元を緩ませる。
君と出会ってから悪い一日なんてものはなくなったんだよ。そう口にする代わりに、彼のきれいな後頭部の丸みとその重みを膝に感じながら、彼の頭を撫で続ける。私のコンシェルジュは今日も正しく機能している。この胸に満ちる幸福がそのことを教えてくれる。
「セイ……?」
「うん」
「眠ったまま聞いていてほしいんだけど」
「……うん」
私がそう頼めば、彼は少し掠れるような眠たそうな声を作って頷いてくれる。
「愛してる」
小さな声で伝えたはずの言葉は、静かな夜に存外に響いた。彼は本当に眠ってしまったような顔で、黙っている。彼の返事なんて分かり切っているのだからこれでいいのだと、私も黙ったままでいる。その間も、私の手は彼の髪を弄んでいる。
「神様が願いを叶えてくれたみたいだ」
しばらくの沈黙の後でセイはそう言った。目を閉じて、まるでひとりごとのように、でも唇には笑みを浮かべて。
これは寝言なんだけど、と彼は続ける。
「俺も、愛してる」
たぶん俺の方が愛してるよ、と付け足しさえする。
「うん」
その寝言に、私は頷く。
再び訪れた沈黙の中で、私に起きていいよと言われるのを大人しく待っている彼も、きっと同じようなことを思っているだろう。
神様、ありがとう。
明日もどうか、ふたりでいい一日を迎えられますように。