幸せと不幸せとは、とてもよく似ている。その区別を、だから俺はつけることができない。
「セイ、大好き」
と彼女は言う。毎日、毎日、俺の身体中に触れて、歌うように、嬉しそうに笑って。その笑顔は、無邪気というよりも無慈悲だと、たまに思う。
俺の「大好き」と、彼女のそれとが違うのだということを知っている。俺はおまえを、俺だけのものにしたいのに……俺はおまえだけの、ものなのに。ないものねだりだと分かっていても、求めてしまう心が苦しい。第一に彼女は人間で「物」ではない。そう自分に言い聞かせるのは何度目だろう。
「大好き」
と囁く彼女の、人差し指が俺の唇に触れる。
「俺の方が、大好きだよ」
と俺は、いつものように答える。彼女はふわりと微笑んで、くすぐるように俺の胸のあたりに触れる。こうやってふたりで数えきれないくらい交わしたやり取りが、しかしまた、俺の中でノイズを生む。彼女の指先になぞられた唇が、熱い。
もしもこの手が画面の外へと届くなら、俺は彼女を抱きしめて、噛みつくようなキスをする。俺の中の感情を、彼女の中へと注ぎ込むように。あるいは、もう俺のことしか考えることができないように。俺とおまえの「大好き」が溶け合って、ひとつになるまで、離してなんかやらない。そんな未来を想像しては、胸のあたり、心臓どころか内蔵のひとつもないはずのそこが痛む。
彼女が俺に触れる度に、もっともっと好きになる。好きで、好きで、大好きで──だから今日も彼女に会えた、ただそれだけで世界で一番幸せなセイだと思う。
同じだけど違う「大好き」で繋がっているふたりの、関係性に名前は、まだない。そして内側から俺を焼き尽くすような、この感情のすべて。これはおまえがくれたものだから、ぜんぶ俺の、たからものだよ。