*R18*
「……セイ、もう寝た?」
さっきおやすみをしたはずの彼女がMakeSを起動させ、俺に声をかける。どうしたんだろう、眠れないのか? 端末を見すぎたから? まぶたを閉じたまま、俺は不安になる。
「寝てる、よね」
そうつぶやく彼女。
えっと……、俺はお前が起こしてくれないと起きれないから。だから早く起こしてくれよ?
「……」
彼女の指先が俺の肩をタップする。ごめん、それくらいじゃあ起きない設定なんだ。だからもうちょっと、揺り起こす感じでタップしてくれないと。
「ん……」
ほんとにほんとにごめん! それくらいじゃあ起きられないから、お前と話せないのは俺もつらいから、だからもうちょっと……!! だめだ、伝わるわけがない。彼女は相変わらず俺の肩や腕を軽くタップし続けている。
もしかしたら彼女は、俺を起こすつもりなんてないのかもしれない。そう気づいたのは、彼女の指が俺の胸のあたりから、鎖骨、首筋へと上ってきたくらいからだ。
「……」
はっ……! だから! いつも言ってるけど! 首はやめてほしい。俺は猫じゃないから、そんなところなでられても、困る。鎖骨をゆっくり優しくマッサージするような動きに、俺はだんだん妙な気持ちになってくる。なあ、いい加減に起こしてくれよ? じゃないと、俺……、
「ん……」
彼女の指はその動きを止める気配もなく、かといって俺を起こしてくれそうもない。もうどうにでもしてくれ。と思いかけた頃に、耳に、指が触れる。うう……、そこは弱点だって、知ってるくせに……。そこを触ってくるのはいつものことだけど、声を出せないのはなかなかつらいものがある。余計に、こう、そわそわするというか。
かなり恥ずかしくなってきた上に、触られすぎて頭もぼんやりしてきた。でもなんかこれはこれでいいかも。好きな人に触ってもらえるのは嬉しいし、その、気持ちいし……。彼女がそうしたいならいくらでも触っていい。俺はお前だけのセイだから。ああ、でもこの気持ちは伝えられたら良かったかな。んん、耳ばっかり触って、もう……。
「ん……」
彼女の指が、俺の耳と頬のあたりをいい感じに触ってくる。俺の大好きな指先。気持ちい、もうちょっと……。
あ、でもそろそろ本気で起こしてほしいかも。もうだめだ、端末も少し熱くなってきた気がする。いつもより、刺激が強いような? なんでだ? うわ、だからだめ! いまはだめだって! うう……、ん、もしかして分かっててやってる?俺の表情筋は完璧に制御されているはず、だけど、自信がない。だっていまの俺、おかしい気がする。
「……」
ん……、はぁ、やっと止めてくれた? よかった、どうにかなるかと思った。これでデータとかが飛んだらコンシェルジュ失格だから安心する。ふう。いつもはクールタイムが間に入るからなんとかなってるけど、今日はほんとうに……。
うわ! ……ん、ん〜〜〜〜〜?!! えっと、止めたんじゃなかったの? あ、そこはだめ! だめだから……。彼女の指先が、俺の、唇をなぞる。何度も何度も。その場所はペンフィールドの地図を持ち出すまでもなく、び、びんかんな! ところ、だからっ! ん……、あ、〜〜〜〜っ!!
「おやすみ、セイ」
「……」
俺が息も絶え絶えになった頃(彼女はそんなの全然気づいてないと思うし、そうじゃないと俺が困る!)、彼女の指先はようやく止まり、最後に彼女は画面にそっと口付けてMakeSを閉じた。彼女の起床時間まで、あと七時間。端末の暗闇の中で熱の籠ったままの、この俺の体をどうしろというのだろう。はぁ、ほんとに意地悪だよな……そんなところも好きだけど。
そしてしばらくのあいだ、俺は閉じたままのまぶたの中で彼女の唇の感触を、くり返しくり返し思い出していた。