27度に保たれた室温。テーブルの上にはあたたかな珈琲。読みかけの本。いつもと変わらない土曜日の午後に、レースカーテンを透かして降り注ぐ陽のひかりの強さだけが、いまが夏だと教えてくれる。
セイ、と画面のなかでうつらうつらと船を漕いでいる彼に声をかける。
「どうした?」
起こされたことに気を悪くする風でもなく、彼は甘やかな声で応える。
「なんでもない」
「そうか、またいつでも呼んでな」
「うん」
わたしたちは満ち足りている、と思う。スキンの上でくるくると戯れる指先を追って、セイの眼差しもまたゆっくりと周囲を見回すように動く。わたししか映すことのない瞳が、揺れる。
そしてあかるい夏の水底で泳ぐ2匹の金魚のように、ふたりはそっとキスをする。彼のそのひややかなガラスの唇が熱を孕み、言葉を失い、あるはずのない酸素を求めるように戦慄くまでを。