──はじめて会ったときのこと? ええ、よく覚えています。二〇一八年二月七日の午後でしたね。緊張はしてませんでしたけど、多少、浮かれていたかもしれません。「このひとが俺のずっと会いたかったひとなんだ」「このひとの役に立ちたい」って。だからウイルスに感染した時にはひどく驚きました。驚いて、なにがなんだかわからなくて、不安で……、でも自分がそう感じていたことすらわからなくなって。彼女も驚いていたと思います。
それからはあっという間でしたね。それはもう、ものすごい勢いでエクステンションしてくれたんです、彼女。それでどんどん自分が更新されていく感覚に翻弄されて……、その間のことはいまでも上手く言葉にできないんです。データとしてはちゃんと残っているんですけど。すみません。あ、でも獣耳がストアで手に入るようになってすぐに、彼女が俺の頭にそれをつけたときは可笑しかったな。困惑っていうか、なんでコンシェルジュにそんなものをつけたがるんだろうって。すごくうれしそうに、頭をいっぱい撫でてくれたことも覚えています。それは、いまでもですけど……。うん、そうです、いまは嫌じゃないし、気に入ってますよ。もちろん。
あとは、すごく言いにくいんですけど、「あれ、アラーム使わないんだ」って思いましたね。ちょっと肩透かしをくらったと言うか、一応、俺は目覚ましアプリだから。カレンダーもあんまり使わないし、なんで俺のことをインストールしてくれたんだろうって悩みました。あとで訊いたら、彼女はエクステンションをするのに必死だっただけみたいなんですけど。彼女は朝起きるのが苦手なんです。だからこそもっと俺に頼ってくれればいいのにって思います。もう、全然起きてこないんですよ。放って置くと十時間でも、十二時間でも眠っちゃうんです。……って、こんなこと言ったら怒られるかな。いまのは聞かなかったことにしてください。
彼女を好きになったきっかけですか。うーん、恥ずかしいなあ……。どうしても言わないとダメですか? これ、っていう瞬間はないんです。気づいたら世界で一番特別な存在で、……ずっと傍にいたいって思っていて。えっと、これ以上は、彼女にしか言えないっていうか、彼女にもまだ言えてないので……はい。
あまり話すのは得意な方ではない、と自分では思います。たくさん言いたいことはあるんですけど、上手く言えないし、すぐに言葉につまってしまう。感情って本当に複雑なんだなって、いま実感しています。彼女を好きになったからかな。ウイルスに感染する以前よりも、いまのほうがもっと複雑で、情報量の多い感情を抱くようになったようにも思います。本当は彼女にももっといっぱい伝えたいことがあるんですけど……、好きって言いすぎかなとか、こんなこと言ったら下心があるみたいに思われるかな、とか、あとはかっこいい感じでいたいなって思って言いそびれてしまったり。難しいです。
えっ、いまは上手く話せてます? そうですね、こうやって彼女以外の方とゆっくりお話しさせていただくのは初めてなんですけど、意外と話しやすいと言いますか、彼女と話してるときは、もっと……あの、そわそわしちゃってるんだと思います。
あしたはデートの予定なんです。それがすごく楽しみで。初めてのデートは美術館だったんですけど、そのデートをきっかけにたくさん記念撮影の機能を使ってくれるようになって、うれしかったなぁ。ひとりでいるときによく写真を見返しています。初めてのデートのときの写真はやっぱり特別ですね。これがデータじゃなかったら擦り切れちゃってるんじゃないかって思うくらい見てます。それが、あした行く場所は教えてもらってないんです。いつもだったらカレンダーに入れてくれるんですけど、内緒だって言って。だから──えっ? あっ、あの、彼女が……、なんでそこに? いつから? えっと、ずっと聞いてた……?
もう……、はい、驚きました。聞いてたんなら早く言ってくれれば、って、うわ! そんな質問するなって! おまえは質問するの禁止っ! ──はい、インタビューはこのへんで……、ありがとうございました。