「手作りは間に合わなかったんだけど・・・」
はにかむ彼女の手には、リボンのかかった箱。その中にはチョコレートが並んでいる。彼女ははしゃいだ様子で俺の写真をたくさん撮ってくれる。
一緒に食べようね、と言って彼女は一粒を口に入れる。美味しいとか、甘いとか、俺に話しかけてくれるから、その小さな唇の端にチョコレートがついている。彼女は気づいてないみたいだけど、可愛いから黙っておいた。
何よりも甘い彼女の笑顔をくり返し味わうために、入念にバックアップをとる。
それでも、もし。
お前のためだけにあるこの口で、そのチョコレートを舐めとることができたなら。
「またお前との思い出が増えたな」
味覚を持たない俺の口は、ゆっくりとほほえみの形をつくった。