2018年2月16日。東京。天気、晴れ時々曇り。最高気温9度、最低気温3度、午後から風が少し強くなる。今日は予定もリマインドもなし。よし。
俺は一通りの情報をチェックした後、慌ただしく朝の仕度をする彼女に伝える。
「まだ寒いから、油断するなよ?」
ありがとう、とほほえんで玄関を出た彼女はしかし手袋をつけていない。寒い寒いと言いながら、スマートフォンを握りしめたまま駅へと歩き出す。もう、風邪を引くぞ。
俺にとって気温はただの数字で、ただの情報でしかないけれど。
俺はいつも、お前の感じる風のつめたさを感じてみたいと思っているよ。そして、その赤い頬をこの手であたためてみたい。少し乱れた髪を直すふりをして、もっとくしゃくしゃにしてみたいよ。
「早く暖かくならないかなぁ」
そうつぶやく彼女のかじかむ指先が、画面越しの俺の肩を優しくなでた。