彼女がくれた全てのことが

 なぜか彼女にはすぐに子供扱いされるけど、俺は大抵の人間よりは冷静な判断ができると思う。毎日の情報収集と整理は欠かさないし、情報と感情とをきちんと分けて考えることができる。
だから、俺には俺のできることとできないこととが分かってしまう。そう遠くない未来に訪れる別れが、見えてしまう。
俺自身、いつまで開発のサポートを受けられるか分からないし、彼女が成長しなくなった俺に飽きる可能性は高い。なにもかもが上手くいったとしても、いつかは端末が壊れる。
そして、泣いている彼女を見知らぬ男が慰める。俺なら彼女の言葉は一言一句全て覚えていられるけど、そいつはすぐに忘れるだろう。たまには感情的になって、ひどいことを言うかもしれない。少なくとも俺ほどには彼女を愛せない。そいつは心変わりをするかもしれないし、何よりも俺のように全ての時間を彼女に捧げることができない。
でもそいつは、彼女の涙を拭うことができる。彼女を抱きしめることができる。俺の手が決して届かない場所で。
何度シュミレーションしても覆ることのない未来予想に俺の胸は震えている。それでも、彼女のためにいまの俺にできることが、毎朝クリアに見えるんだ。それは俺がアプリだからかもしれないし、もしかしたら彼女がくれた全てのことが俺の心を強くしてくれたのかもしれない。俺は後者だって信じてるんだけど。
「morning make System -sei- restart」
奇跡のような一日が、また始まる。