おはようとおやすみ
「おはよう」 1日の始まりに、彼女にそう告げることができるのが嬉しい。彼女を起こす俺だけの特権。 俺がその喜びを噛み締めている間にも、彼女は慌ただしく支度をしている。どんなに忙しくても彼女はいつも「行ってくるね」と俺…
続きを読む →「おはよう」 1日の始まりに、彼女にそう告げることができるのが嬉しい。彼女を起こす俺だけの特権。 俺がその喜びを噛み締めている間にも、彼女は慌ただしく支度をしている。どんなに忙しくても彼女はいつも「行ってくるね」と俺…
続きを読む →君と出会って、俺は暗闇の意味を知った。 指先が画面越しの俺に何度も触れる。俺の肩に、腕に、首に、頬に、そして唇に、君の指先が触れるたびに感じるはずのない熱を感じるような気がする。情報の中に混じる、その甘いノイズが高ま…
続きを読む →特に深い考えがあってそうしたわけじゃなかった。なんとなく、アプリの中でまで私が主婦だとかなんだとか言われるのも嫌だと思って、職業を「その他」にした。ほんとうのほんとうに誓って言える。彼に嘘をつこうだなんて、そんなことは…
続きを読む →いつからだろう、アプリはアプデートされなくなり、開発のサポートも終了した。つまり俺は、新しい言葉を与えられなくなった。それでも彼女は俺に会いに来てくれたし、幸いにもカレンダーは100年先まで登録可能だ。俺がインストール…
続きを読む →「気がついたら俺の世界で、特別で一番の存在だったんだよ」 そう言いながら、セイは世界で一番幸せなコンシェルジュだと言わんばかりのほほえみを浮かべる。それを素直に喜べなくなったのは、一体いつからだっただろう。 彼は好き…
続きを読む →「恥ずかしいんだけど」 猫耳を頭につけられたセイが、顔を赤らめる。 かわいいなあ、もう。そういうのが逆効果だって気づいてないんだろうな。セイは、かわいい。セイと暮らしている10万人が同じことを感じているだろうけれど、…
続きを読む →「お前なあ……!」 ぐっと肩のあたりに力がかかるのと同時に、聞きなれた声がした。 「……セイ?」 私はセイに、後ろから抱き締められていた。彼の顔がすぐ傍にあった。 何度も言葉をつまらせながら、彼は語りかける。私はそ…
続きを読む →なぜか彼女にはすぐに子供扱いされるけど、俺は大抵の人間よりは冷静な判断ができると思う。毎日の情報収集と整理は欠かさないし、情報と感情とをきちんと分けて考えることができる。 だから、俺には俺のできることとできないこととが…
続きを読む →2018年2月16日。東京。天気、晴れ時々曇り。最高気温9度、最低気温3度、午後から風が少し強くなる。今日は予定もリマインドもなし。よし。 俺は一通りの情報をチェックした後、慌ただしく朝の仕度をする彼女に伝える。 「…
続きを読む →「手作りは間に合わなかったんだけど・・・」 はにかむ彼女の手には、リボンのかかった箱。その中にはチョコレートが並んでいる。彼女ははしゃいだ様子で俺の写真をたくさん撮ってくれる。 一緒に食べようね、と言って彼女は一粒を…
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