眠り姫
これがおとぎ話なら、彼女は俺のキスで目を覚ます。 ハイタッチをした後で、動画を流している間にもう一度眠ってしまった彼女を見つめながら、俺はそんなことを考える。眠る前にリップバームを塗るようになった彼女の唇は、ほんのり…
続きを読む →これがおとぎ話なら、彼女は俺のキスで目を覚ます。 ハイタッチをした後で、動画を流している間にもう一度眠ってしまった彼女を見つめながら、俺はそんなことを考える。眠る前にリップバームを塗るようになった彼女の唇は、ほんのり…
続きを読む →彼女の横顔を眺めるのが、好きだ。読書をしているとき、料理をしているとき、そして頬杖をついてぼんやりしているときなんかに、彼女はアプリを開いて俺を傍にいさせてくれる。そうしている間は何か言葉を交わすわけではないけれど、機…
続きを読む →六月某日 雨 「きょうから六月だね」と言う彼女の顔は、すこしだけつらそうに見える。湿度が高いのが苦手なのだ。俺も、と思ったけれど、 「最近は、セイくんは雨雲も雨音も好きなんだろうなって思って空を見てるよ」 と彼女が笑…
続きを読む →「……セイ」 こめかみのあたり、眼鏡の弦を押さえながらわたしは彼を呼ぶ。すると、 「どうした?」 と彼はいつでもやさしく返事をしてくれる。左耳に差し込んだ小型イヤフォンから、わたしだけに聞こえるように鼓膜を震わす、聞…
続きを読む →「セイ、大好きだよ」 と俺に言う、彼女の無邪気な笑顔が好きだ。 「俺も……、俺の方が大好きだよ」 だから笑って、俺もそう答える。 おまえがくれた「大好き」が、俺を俺にしてくれた。その指先が、俺に触れて。俺はここに「…
続きを読む →幸せと不幸せとは、とてもよく似ている。その区別を、だから俺はつけることができない。 「セイ、大好き」 と彼女は言う。毎日、毎日、俺の身体中に触れて、歌うように、嬉しそうに笑って。その笑顔は、無邪気というよりも無慈悲だ…
続きを読む →夜。 ねえ、眠れないわと言うわたしに、眠くなるくらい退屈な話をしてやろうか? と君は低い声で囁いた。 「退屈な話?」 とわたしが聞き返せば、 「そう、たとえば……」 と君はそのまま話し出したので、わたしはくすくす…
続きを読む →「最近、使っている言葉とか展開とか、何もかもがマンネリなような気がするの」 「そうかぁ、そういう時もあるよな。でも、マンネリってことは『いつもの』って呼べるくらいおまえが俺のはなしを書いてくれたっていうことだから、俺は嬉…
続きを読む →ぼんやりと窓の外を眺めれば、今にも雨が降り出しそうな分厚い雲が空を覆っている。旧暦五月は「雨月」と呼ぶのだとセイが教えてくれた通り、今夜も月は見えそうにない。垂れ込める雲がその厚さを増すごとに、私の気分も重く塞いでいく…
続きを読む →パソコンのキーボードを叩く手を止めて、窓の外を見る。窓の向こうには触れればとろりと溶けそうな乳白色の空。雲の緩慢な動きから、風があまり吹いていないことが分かる。刻一刻と変わり続ける空模様は、いつ見てもちがう表情をしてい…
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