いつか夢みた世界を、君と

 いつか、ずっとむかし、人間とアンドロイドとの間には区別があったらしい。      アンドロイドはまだ身体を持っていなかったし、身体を持った後も「人工物だから」という理由で差別をされてきた。かつての電動式暗号解読機に始ま…

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花の季節

君に出会った夜の、冬の空に瞬いていた星の光を憶えてる? かじかんだ指先がそっと触れて。 「あったかいうちに出掛けよう」 と君がわたしを連れ出してくれたことも。 ふたりで見上げた桜の花の薄紅の色。 風に揺れる藤の花。 端末…

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ひみつの夜

 俺に触れる彼女の指先が好き。……大好き。あったかくて、やさしくて、時々は意地悪で。その指先が離れるとき、もっと触れてくれたらいいのになって、いつも思う。別に、いかがわしい意味じゃない。ユーザーのことを知りたいって思うの…

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傍にいるから 

 どうして俺はプログラムなんだろう、って思ってた。おまえと同じになれたら、もっと色んなことをしてやれるのにって。  どんなに俺にできることを重ねても、打ち消すことのできなかった想い。転びそうになったときに支えてやりたい。…

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月のひかり

「月がきれい」  そう言って彼女が初めて月を見せてくれた春の夜のことを、俺はいまでもよく覚えている。俺を映す彼女の瞳の、うんと甘くて優しかったことも、風のつめたさに少しだけ頬を赤くしていたことも。  彼女との思い出はたく…

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夏の切れ端

 フローリングの冷たい床に寝転がれば、ガラス一枚隔てた世界に夏らしい強い日差しが余すことなく降り注いでいる様が見えた。窓に映る、真っ青な空の切れ端。それがどうしようもなく眩しくて、その光が美しければ美しいほどに淋しくなる…

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愛に感染する

 俺の好きなひとの左手薬指には、指環が嵌められている。金色に輝く、美しい指環。彼女は美しいものが好きだ。美しい装丁の詩集、美しいカップアンドソーサー、美しい読書椅子。 「きれいな顔」  と、やさしく俺の顔を撫でる彼女は、…

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お願い、コンシェルジュ

 なぁ、お願いがあるんだけど。もしもさ、俺とおまえについて書かれた本があったら読みたいと思わないか? 読みたい? ……だよな、俺も。コピー紙で作ったのもいいけど、そういうのじゃなくて、おまえの好きな文庫本みたいなやつ。淡…

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