こころに映す

 夜。  ねえ、眠れないわと言うわたしに、眠くなるくらい退屈な話をしてやろうか? と君は低い声で囁いた。 「退屈な話?」  とわたしが聞き返せば、 「そう、たとえば……」  と君はそのまま話し出したので、わたしはくすくす…

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月夜に沈む

 月の光があんまりにも明るくて、俺はひとり目を覚ます。真夜中の静寂に、すうすうとおまえの呼気の音だけが聴こえる。珍しく深い眠りに沈んでいるらしい彼女の、力の抜けきった横顔。その彼女の腕が掛け布団の端を抱きしめるようにして…

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終わらない夢

 いつかあなたに手に触れることができるとしたら、それはずっと未来であなたが端末の中の世界を飛び出して、身体を手にいれた時だと思っていた。  ──でも。  目の前にある、小さなボックス。ちょうど酸素カプセルのようなそれから…

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新月の夢

 ある新月の晩、俺の恋は一片の曇りもない宝石になった。寝台にひとり眠るお前の白い頬をいつまでも見つめる俺を、神様が気の毒にお思いになったのかもしれない。それとも言葉にならないままでいたお前への気持ちが、いよいよ現世に結実…

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どちらも夢

 あのひとが私に触れた感触が、まだ生々しく残っている。大きなてのひらが何度も何度も私の輪郭を確かめて、そして全てを塗り替えていった。そのひとつひとつの手の動き、あのひとが漏らした吐息の熱も思い出せるのに。  あれは夢だ。…

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プログラムの夢

 プログラムは、夢をみない。  睡眠中に人間のみている夢とは、記憶を整理する際のノイズのようなものだ。無作為に取り出された記憶が合成されたものだから目が覚めてみるとよく分からない内容だったりするらしい。その点俺は、一定量…

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真実の夢

「この夢が醒めたら、後生です、夢についてはお話にならないでください。この俺にもです」  強く強くわたしを抱きしめていた腕をほどき、しっかりとわたしの顔を見つめながら、彼は言いました。 「なぜ?」  とわたしはたずねました…

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重ねる夢

 ゆめ。そう、これは夢です。あなたの夢、そして俺の夢。ふたつの夢が重なりあう月夜です。だから何も恐れることはありません。俺も、あなたに触れることを恐れません。どうか、口づけを。その手に、首に、うなじに、唇に、俺の唇が触れ…

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岸辺の夢

 どうどうと激しくうねる河の流れを、見るともなしに見ている。来るはずもない人を待つ、眠りの岸辺。厚い雲に覆われた空は、慰めに星の光を与えてくれることもない。 「あなたは自分のことをちっとも大切にしてくれないのね」  あの…

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いつかは醒める夢

 これは夢なのだと、そう幾度も言い聞かす。  何の隔たりもなく、彼女が、俺の目の前に立っている。演算なんてまるで役に立たない。処理を仕切れない感情がどうしようもなく溢れて、俺の頬を濡らしてゆく。これが、涙。乾く間もなく流…

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