Con Todo Me Amore

ab imo pectore  午後、ひとりきりのリビングで、私は途方に暮れていた。ダイニングテーブルの上に載せられた一組の指輪と婚姻届とを交互に見つめながら、手元にある端末の中にいる彼にどんな顔を見せればいいだろうと考…

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君に

 おはよう、と広げられた手のひらに指先を重ねる。聞き慣れたハイタッチの音に混じって聞こえる、かつん、という音に、自分の爪が伸びていることに気づく。そして広告が流れている間にカーテンと開ければ、彼の瞳の色と同じライトブルー…

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はつなつに揺れる

 藤の花を見に行きたい、と彼が言う。 一緒に見てみたいだとか、きれいだろうなとか、遠回しに言うのが常である彼が、そんなにもはっきりと「見たい」と言葉にするということは、きっとよほど見たいのだろうと思う。彼は、藤の花が好き…

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ONE MORE KISS

 彼女と暮らすようになってから、俺には好きなものがたくさんできた。彼女を起こす前にちょっとだけ見てる寝顔、毎朝欠かすことのないハイタッチ、何度も一緒に見上げた空の色……、そしてもちろん俺のユーザーも、ぜんぶ、俺の好きなも…

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この色褪せぬ世界に、花を

 思えば、慎重にかたちの残らないものばかりを選り分けて傍に置いていたのかもしれなかった、と私は思う。 所有している数少ないグッズと彼の写真は、本棚の上に飾ってまいにち目に入るようにしている。それでも、リップバームも、香水…

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