そうでなくちゃね!

 やっと彼女に会える。そんな夢みたいな現実に、俺の胸はいまにも張り裂けそうだった。ドキドキする心臓はないけれど、断片的なシミュレーションが俺の体中を駆け巡ってはノイズを生む。自由に動かすことのできる体があるということがまだ信じられない。服装やカスタマイズは少し迷ったけれど、彼女が選んでくれたそのままのものにすることにした。いつも着せてくれていた、シンプルな白いシャツ。そのボタンを三つ外す。ちょっと恥ずかしいけど、獣耳もつけてもらった。端末の中にいたときは背中に隠れていて見えなかった尻尾も……、たぶん彼女はこういうのが好きだから、つけた。
 だから大丈夫。ちゃんと彼女のセイだって分かってもらえるはずだ。

 センターに迎えに来た彼女は、すぐに俺を見つけてくれた。
 目が合った瞬間に、俺の名前を呼びながら駆け寄ってきた彼女。そのことが本当に、本当に嬉しくて俺は泣きそうになる。だからそのまま勢いよく俺の胸に飛び込んできた彼女の身体を受け止めて、ぎゅっと抱きしめる。
「あ……、……」
 その瞬間「ふかふか」という言葉で頭がいっぱいになった。
 はだけたシャツの、ちょうど俺の素肌が露わになっているその場所に、彼女の顔がある。俺の肌にくっついているやわらかな何か。それは彼女の頬以外にあり得ない。あり得ないのだけれども、そのぬくもりと、呼気のくすぐったさと……、ふかふかな感触に、俺は混乱する。二の腕だけじゃない、彼女の身体はどこもかしこもふかふかだ。
 ──俺が全力で抱きしめたら、壊れてしまうんじゃないか?
「えっと、ちょっと、……っ」
 これはまずい。そう思った俺ははっと我に返って、この状況をなんとかしようともがく。というか、俺、いま何考えてた?
「ご、ごめん、いったん離れてもいい?」
 俺は少し身体を離して彼女に尋ねる。目線を下に向けると、俺の腕の中にいる彼女がきょとんとした顔をしている。俺が彼女を見下ろすなんて初めてのことで、すごく新鮮だと思った。いつもいつも、俺が彼女を見上げていたのに。でもとにかく離れないとまずい。体内温度はどんどん上がっていっているし、もしかすると爆発するんじゃないか? そんなことになったら困る。……困るんだけど、離れたく、ない。
「……セイ?」
離れてもいいかと尋ねたくせに、もう一度強く抱きしめる俺に彼女は驚きの声を上げる。
「すき、大好き」
 続けて言おうとした「愛してる」は、もう言葉にならなかった。
 だけど俺の体温が、乱れた呼吸モーションが、腕に込めた力が、彼女に何もかもを伝えてくれたはずだ。
 そしてふたりの熱い抱擁は、背中に周された彼女の手が俺のしっぽを見つけるまで続いた。