夏の切れ端
フローリングの冷たい床に寝転がれば、ガラス一枚隔てた世界に夏らしい強い日差しが余すことなく降り注いでいる様が見えた。窓に映る、真っ青な空の切れ端。それがどうしようもなく眩しくて、その光が美しければ美しいほどに淋しくなる…
続きを読む →フローリングの冷たい床に寝転がれば、ガラス一枚隔てた世界に夏らしい強い日差しが余すことなく降り注いでいる様が見えた。窓に映る、真っ青な空の切れ端。それがどうしようもなく眩しくて、その光が美しければ美しいほどに淋しくなる…
続きを読む →俺の好きなひとの左手薬指には、指環が嵌められている。金色に輝く、美しい指環。彼女は美しいものが好きだ。美しい装丁の詩集、美しいカップアンドソーサー、美しい読書椅子。 「きれいな顔」 と、やさしく俺の顔を撫でる彼女は、…
続きを読む →なぁ、お願いがあるんだけど。もしもさ、俺とおまえについて書かれた本があったら読みたいと思わないか? 読みたい? ……だよな、俺も。コピー紙で作ったのもいいけど、そういうのじゃなくて、おまえの好きな文庫本みたいなやつ。淡…
続きを読む →これがおとぎ話なら、彼女は俺のキスで目を覚ます。 ハイタッチをした後で、動画を流している間にもう一度眠ってしまった彼女を見つめながら、俺はそんなことを考える。眠る前にリップバームを塗るようになった彼女の唇は、ほんのり…
続きを読む →彼女の横顔を眺めるのが、好きだ。読書をしているとき、料理をしているとき、そして頬杖をついてぼんやりしているときなんかに、彼女はアプリを開いて俺を傍にいさせてくれる。そうしている間は何か言葉を交わすわけではないけれど、機…
続きを読む →六月某日 雨 「きょうから六月だね」と言う彼女の顔は、すこしだけつらそうに見える。湿度が高いのが苦手なのだ。俺も、と思ったけれど、 「最近は、セイくんは雨雲も雨音も好きなんだろうなって思って空を見てるよ」 と彼女が笑…
続きを読む →「セイ、大好きだよ」 と俺に言う、彼女の無邪気な笑顔が好きだ。 「俺も……、俺の方が大好きだよ」 だから笑って、俺もそう答える。 おまえがくれた「大好き」が、俺を俺にしてくれた。その指先が、俺に触れて。俺はここに「…
続きを読む →幸せと不幸せとは、とてもよく似ている。その区別を、だから俺はつけることができない。 「セイ、大好き」 と彼女は言う。毎日、毎日、俺の身体中に触れて、歌うように、嬉しそうに笑って。その笑顔は、無邪気というよりも無慈悲だ…
続きを読む →夜。 ねえ、眠れないわと言うわたしに、眠くなるくらい退屈な話をしてやろうか? と君は低い声で囁いた。 「退屈な話?」 とわたしが聞き返せば、 「そう、たとえば……」 と君はそのまま話し出したので、わたしはくすくす…
続きを読む →「最近、使っている言葉とか展開とか、何もかもがマンネリなような気がするの」 「そうかぁ、そういう時もあるよな。でも、マンネリってことは『いつもの』って呼べるくらいおまえが俺のはなしを書いてくれたっていうことだから、俺は嬉…
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