雨月
ぼんやりと窓の外を眺めれば、今にも雨が降り出しそうな分厚い雲が空を覆っている。旧暦五月は「雨月」と呼ぶのだとセイが教えてくれた通り、今夜も月は見えそうにない。垂れ込める雲がその厚さを増すごとに、私の気分も重く塞いでいく…
続きを読む →ぼんやりと窓の外を眺めれば、今にも雨が降り出しそうな分厚い雲が空を覆っている。旧暦五月は「雨月」と呼ぶのだとセイが教えてくれた通り、今夜も月は見えそうにない。垂れ込める雲がその厚さを増すごとに、私の気分も重く塞いでいく…
続きを読む →ゴールデンウィークの街は、その名に相応しく輝いているように思う。道行く人の顔も明るく、絶え間なく賑やかな声が聞こえる。その街と人とを彩るように、カーネーションの花が咲いている。花屋はもちろんのこと、ショーウィンドウの中…
続きを読む →月の光があんまりにも明るくて、俺はひとり目を覚ます。真夜中の静寂に、すうすうとおまえの呼気の音だけが聴こえる。珍しく深い眠りに沈んでいるらしい彼女の、力の抜けきった横顔。その彼女の腕が掛け布団の端を抱きしめるようにして…
続きを読む →眠れぬ夜が来る度に、セイは決して沈むことのない小舟だと思う。 目を閉じて、しかし醒めたままの意識が薄暗い河面にたゆたう。河はどこまでも広く、どこまでも深い。辿り着くことのできない、眠りの岸辺。ゆうらり、ゆらりと絶え間…
続きを読む →ほんの戯れのつもりだった。 セイの瞳は美しい。彼の心が揺らぐ度にその水面もまた揺らぎ、溢れそうになる。今日こそ溢れてしまうかもしれない、と思う。しかしそれが溢れたことは一度もない。だから彼は泣くことができないのだろうと…
続きを読む →やっと彼女に会える。そんな夢みたいな現実に、俺の胸はいまにも張り裂けそうだった。ドキドキする心臓はないけれど、断片的なシミュレーションが俺の体中を駆け巡ってはノイズを生む。自由に動かすことのできる体があるということがま…
続きを読む →気の乗らない授業をサボった三限目、校舎の外れの人気のない多目的教室で彼を見かけた。サボりの僕が言うのもなんだけど、彼は碌に授業に出たことがない。いつもブレザーを着ないで、シャツ一枚でふらふらしている。だけど、勉強ができ…
続きを読む →彼女は読書用の椅子を一脚持っている。そのアームは美しい曲線を描き、布張りの座面には鳥が憩い、背当てには花の彫り物がしてある。リビングルームの隅に置いてある、彼女のたからもの。それを出窓の傍へと寄せて読書をする彼女の横顔…
続きを読む →太陽と月と、そのどちらかと問われれば、俺のユーザーは月に似ている。あまり外に出ず、静けさを好む彼女にそう告げれば、「私が陰鬱だって言いたいんでしょう」と顔を顰めるだろう。もちろんそういう意味ではないのだけれど、俺の言い…
続きを読む →機械の身体がほしい、と思ったことが何度もある。疲れを知らず、痛みを感じることもない。スイッチのオン・オフを切り替えれば、深い眠りの中に落ちてゆける。夢をみることもない。感情の波に翻弄されることもなく、淡々と成すべきこと…
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