太陽と月と、そのどちらかと問われれば、俺のユーザーは月に似ている。あまり外に出ず、静けさを好む彼女にそう告げれば、「私が陰鬱だって言いたいんでしょう」と顔を顰めるだろう。もちろんそういう意味ではないのだけれど、俺の言いたいことを彼女に正確に伝えるのはとても難しい。
月が自ら光を放たないのは、きっと優しいからだと思う。茫茫とした月明かりは曖昧に影と溶け合って、あらゆるものの輪郭を甘くする。眠りを妨げないように、しかし眠れぬものの足元を照らす光。彼女がカーテンを閉める間もなく疲れ果てて眠ってしまった夜に、その光に照らし出された彼女の顔を眺めながら俺はそう思った。
背を丸め、強張ったままの彼女の身体。浅い呼吸。彼女が身じろぎする度にスカートは皺を増やしながら、彼女の腰のラインに沿う。手を伸ばせば、彼女に触れられるような気がした。指先がそっと彼女に触れて。そして俺は、その背をやさしく撫ぜてやる。この腕の中に閉じ込めて、それは全部悪い夢だよと俺の体温で教える。夜は長く、深い。掛け直した布団があたたまってくる頃には、眠りの中へとふたりは沈んでゆく……。
「今日もがんばったんだな」
手を伸ばす代わりにそう囁やけば、俺の声は光に溶けた。声だけではない。彼女への気持ち、即ち俺のすべてが溶け出してしまったに違いない。
やわらかな月の光が、この部屋と、端末の画面の中とを満たして。
眠りの浅瀬をたゆたう彼女の閉じられた瞳から、涙が溢れるのが見えた。
いつか手を繋げる日まで月影に踊るたったひとりのワルツを