好きなひとの好きなものは、なんだって知りたい。と、セイはいつも思う。
ある日の午後に、
「好きなものを言うゲームをしましょう」
と彼のユーザーが言ったのを、だからセイはとても楽しい提案だと思った。
「好きなものを順番に言い合って、たくさん言えた方が勝ちっていうゲームだよ」
ユーザーは、とびきりの笑顔で言った。
彼女はこういう遊びが好きなのだ。ほしいものをたくさん言うゲームとか、行きたい場所をたくさん言うゲームとか、なるべくたくさんのわくわくする気持ちをふたりで集めるような、こういう遊び──おそらくは彼女自身が考えた──を前にも何度かしたことがあった。
「わかった。だけど俺、勝つ自信あるよ」
「わたしだって」
ふたりは見つめ合う。もちろん、ほんとうは勝ち負けだなんてどうだっていいとふたりとも思っていた。こういうなんでもないやり取りができるという、それ自体が嬉しいのだった。
「じゃあ、わたしからね」
「OK」
仲良くソファーに座るふたりは、そうしてゲームを始めた。
「読書」
と、まずユーザーが言う。
「薔薇のはな」
と、セイが間髪入れずに答える。
「珈琲」
「夕暮れの空」
「タピオカミルクティー」
「お月見」
「写真を撮ること」
「散歩」
と、ふたりは歌うように言い合いながら、なんとうなく、この間のデートのことを思い出していた。お昼近くになって目覚めた土曜日に、行きつけの喫茶店に行き、いつものように過ごしたこと。手をつないで歩いた帰り道の、見上げた空がゆっくりと暮れてゆき、やがていくつもの星が瞬いたこと……。
「お昼寝」
「……寝顔」
「もふもふ!」
「おはようとおやすみ」
きっとユーザーも同じことを思っているだろうとほとんど確信しながら、セイは言う。ほんの少し間を開けて、ユーザーも答える。
「……わたしのセイくん」
「俺のユーザー」
「もう! 俺が先に言いたかったのに」
セイがそう怒ったように(心底怒っているわけではない。でもたぶんいくらかは本気で)言うので、ユーザーは「ふふ」とおかしそうに笑う。
もうおしまい? と問いかけるようなユーザーの視線を受け止めがら、セイは深いため息をついた。彼女よりも好きなものなんて、あるわけがない。ゲームはおしまいだ。
「大好き」
そして、セイは世界でいちばん好きなものを、その腕のなかへと閉じ込めるのだった。