「よく分からんが、ふたりは真剣に交際しているということだな!!」

髪型シンメ 望+おぼろ

「ソウちゃん、僕はそんなつもりで言ったわけじゃないんですケド!?」

 どうしたの、ぼん? えっ、あぁ、おぼろに聞いたの? ……光国から? そうなんだ、前から約束していたんだけど、なかなか予定が合わなくてね。先週の土曜日に、おぼろが俺のバイト先に来てくれて、やっとふたりで食事することができたんだ。はは、ぼんも俺とデートしたかったの? ……ぼん?
 ──そうか、ぼんは……、いや、なんでもないよ。……ごめんね、ぼん。ぼんもまたごはんを食べにおいで。もちろん、おぼろと一緒にね♡ そうだ、クリスマス・イブなんてどうかな? ランチタイムだったら、まだ席をとれるはずだから。限定メニューもあるし、ツリーやオーナメントも飾られてにぎやかな雰囲気だから、きっと楽しめるはずだよ。
 そうだね。確かに、クリスマス・イブはバー・カンパネラを開く予定だけど、それは夕方からだろう? 会場の準備は前日までにだいたい終わらせるつもりだし、ランチタイムなら大丈夫さ。いいアイディアだと思うんだけど、どうかな? 
 はは、ぼんならそう言ってくれると思ったよ! グラッチェ♡ ぼんがよろこんでくれると、俺もうれしいんだ。心の底からね。おぼろも、よろこんでくれるといいんだけど。
 ……大丈夫さ、ぼん。きっと上手くいくよ。ぼんの愛を言葉に込めれば、それはおぼろにも伝わるはずだよ。……あはは! ごめん、ごめん、冗談だよ。
 さぁ、おぼろのイブの予定が埋まる前に誘いに行かないといけないね! それとも、俺がおぼろに伝えておこうか? ……そうだね。おぼろも、ぼんから直接誘われた方がよろこぶはずだよ。どうしてって、俺がおぼろだったらそう思うはずだから。本当さ。……ほら、善は急げって言うだろう? 頑張って、ぼん♡
 ……ふぅ、これで一安心かな? この前の食事の時も、おぼろはぼんの話ばかりしてたから……上手くいくといいね、ぼん。

「俺なんかを誘ってくれるなんて、三木殿はやっぱり優しい」

 うわっ、ソウちゃんのバイト先のクリスマス限定ランチ、激ヤバじゃん! どれも全部おいしそうだし、盛り付けもプレートも超可愛いからしゃべスタに写真をアップしたらみんなもよろこんでくれそう! ソウちゃんも言ってたけど、インテリアもクリスマスな感じにまとまっててキラキラしてる。でも、値段はいつも通りリーズナブルなんだよネ。……あとは、僕が勇気を出すだけかぁ。なんか緊張してきちゃったナ。いやいや、折角ソウちゃんも協力してくれたんだし、こんな弱気じゃダメだよネ。よ~しっ、テンション上げてこ~~うっ! って、オボ郎!? ええっ、い、いつからそこにいたの? マジで全然気づかなかったんですケド?? ……もしかして、いまのひとりごと聞かれちゃってた感じ? あっ、いや、オボ郎は悪くないヨ! にゃっはは、ごめんネ、ちょっと驚いちゃっただけ。 
 でもちょうど良かった、かも。ソウちゃんのバイト先にごはんを食べにおいでって割引券をもらったんだけどさ、オボ郎も一緒にどうかなって思って。えっと、それが、ソウちゃんがくれた割引券、クリスマス・イブ限定のスペシャルなやつなんだよネ。……だから、ホント、オボ郎の予定が空いてて、嫌じゃなかったらでいいんだけど、どうかナ?
 …………。それって、えっと……、オボ郎が一緒に行ってくれる、ってこと……?やった~~! マジ嬉しい! ありがとう、オボ郎! はぁ~~、よかった。オボ郎が黙ってる間、断られるかと思って超ヒヤヒヤしちゃったヨ! よ~し、ソウちゃんにも負けないくらい、オボ郎のことを楽しませちゃうから、期待しててよネ☆  
 ……なんて、咄嗟に割引券をもらったって言っちゃったヨ。お会計のときに上手く誤魔化せるかナ? そもそも、割引券があるからっていう誘い文句はナシでしょ……。はぁ、今から胸がドキドキしすぎてなんかもう無理だヨ~~!

「苦いけど、ちょっと甘くて、舌がピリピリする味がしました」

 やあ、霧山くん。ちょうどよかった、いま霧山くんを探そうと思っていたところだったんだよ。はい、これ。飴ちゃんをあげよう。ほら、食べてごらん? うんうん、霧山くんはいい子だねえ。それで、味の方はどうかな? ……なるほどねえ、いや、だいたい聞きとれたよ。ありがとう。この飴の味は、なんと言ったらいいのかな、パッケージには「媚薬飴」としか書いてなくてね。おやおや、大丈夫かい? 急に咽せたりして。喉に詰まらせると危ないから、気をつけるんだよ。
 落ち着いたかい? 俺もまだ試していないからなんとも言えないんだけど、ジョークグッズの類だから健康に害はないはずだよ。もし効果があったとしても、ちょっと汗をかきやすくなったり、胸がドキドキしたり、顔が赤くなったりする程度だと思うけれど……おや? その顔は、これから何か予定があるのかな? そうか、それは悪いことをしたね。いや、霧山くんは何も悪くない。お兄さんが悪かったよ。すまないねえ、霧山くん。
 えっ? どうしてそんなことを言うんだい? 霧山くんはいい子じゃないか。これから会う子だってそう思っているはずだよ。俺を信じてごらん? ……うーん、じゃあ、そうだな。こうしようか。もしも今日、これから何か上手くいかないことがあったとしても、それは俺があげた飴のせいなんだ。全部、無理に変な飴を食べさせた悪いお兄さんのせいなんだよ。だから、霧山くんは何も心配せずに行っておいで。
 ああ、そうだ、これ。ぼんの分の飴もあげるから……ほら、遠慮はいらないよ。いいからいいから。それよりも、そろそろ時間じゃないのかい? ほら、気をつけて行ってくるんだよ。
「寮長殿っ! あ、あの、寮長殿も寮まで気をつけて帰ってくださいね」
 はいはい、分かったよ。霧山くんは心配性だねえ……。さて、寮はあっちかな?

「僕も顔が赤い? お店の照明がオレンジっぽい色だからそう見えるだけじゃないかナ!?」

 ……三木殿。今日は、よろしくお願いします。俺と一緒じゃ、三木殿はあまり楽しくないかもしれないけど……えっ、あ、はい、が、頑張ります。
 この間八神殿と来たときよりも、お店がキラキラしてる……あそこで光っているのはなんだろう。雪の花みたいで、すごく綺麗だ。えっと、三木殿の後ろ。そっちじゃなくて、もう少し右……うわぁっ! ご、ごめん、これはその、こんなに近づくつもりじゃなくて……えっ、顔が赤い? 寮長殿にもらった飴が効いてきたのかな!? ははは……、俺もよく分かってないんだけど、顔が赤くなったり、汗をかきやすくなったり、胸がドキドキしたりするかもしれないって、寮長殿が……。三木殿の分もあるけど、三木殿は舐めない方がいいと思うよ。俺の体調は大丈夫。でも、何があるか分からないし……お、俺が優しい!? いや、全然そんなことないよ、三木殿の方がずっと優しいと思う。いつも俺なんかにも話しかけてくれるし、こうして食事にも誘ってくれる……どんな時もみんなが楽しめるようにたくさん考えてくれる三木殿は、優しくて、すごく格好いいと思う。って、俺が言っても説得力がないけど……。あれ、三木殿? 三木殿も顔が少し赤いような……あぁ、照明!? なるほど、さっき俺の顔が赤く見えたのもそのせいかもしれない。何ともないなら、よかった。
 そうだ、三木殿。今日は写真撮らなくていいの? えっ、忘れてた? 三木殿でもそんなことがあるんだね。……って、うわああ! 俺も撮るの? は、恥ずかしすぎる……けど、記念になるなら……うん、こっちにも写真届いたよ。ありがとう。……宝物にしよう。あっ、いや、何でもない、ははは。
 今日はすごく、楽しかったな。三木殿もそう思ってくれるといいんだけど……。って、光国がなんでここに? えっと、これはデートとかそういうのじゃなくて……! あれ? 三木殿? どうしたの?

「もしかしてこれが、くりすます・でーとというものなのか?」

 三木殿との食事を終えて店を出ると、光国がいた。
 どうやら、二十五日にゴールドハイムのみんなで集まる予定のクリスマスパーティー──二十四日、つまり今日はシアターベル主催のクリスマスパーティーが開かれるし、クリスマスのパーティーはイブではなくてクリスマス当日に開くべきだと月光院殿が強く主張した。──の買い出しの途中らしい。
「三木! おぼろ! こんなところで会うとは奇遇だな」
 と、大きな買い物袋を両手に抱えてこちらに近づいてくる
「おまえたちも買い出しか?」
「う~ん、そういうわけじゃないんだけどネ」
 そう言いながら、三木殿が俺の方をちらりと見た。なんて説明したらいいか、困っているみたいだ。その不安げな表情を見て、ここは俺がしっかりしないと、と思う。だけど、
「えっと、これはデートとかそういうのじゃなくて……!」
 と言った途端、三木殿が悲鳴を上げた。その隣で光国は「んん?」と怪訝そうな顔をしている。そんなふたりの様子を見てあれ? と俺は首を傾げた。
「でーと……?」
「いや、だから、光国。これはデートじゃなくて……」
「三木とおぼろは交際していたのか!?」
「し、してないよ!!」
 ちゃんと誤魔化したつもりだったのに、はなしがどんどん変な方向へと転がってゆく。こうなった光国を止めることなんて、たぶん誰にもできない。
「ミッツ、もうやめてヨ~!!」
「なんだ、三木! おまえはどう思っているんだ?」
「「え??」」
「おぼろとの交際は真剣なのかと聞いているんだ!!」
「「えええええ~~~~~っ!?」」
 思わず俺と三木殿の声が重なった。そんな馬鹿なと思うけれど、光国の中で、俺と三木殿は完全に付き合っていることになっているらしい。俺はいいとしても、そんなの三木殿に申し訳なさすぎる……。それに、三木殿はさっきから顔が青くなったり、赤くなったりしているし、やっぱり体調が良くないのかもしれない。
「み、光国、ちょっと落ち着いて……。そもそもこれはデートじゃなくて、」
 もう一度説明をしようと口を開くと、
「ちょっと、オボ郎! 僕はデートのつもりだったんですケド!?」
 と、三木殿からの思わぬ反撃が返ってきた。
「えっ?」
「どういうことなんだ、おぼろ!」
「三木殿と、俺が、デート……」
 あまりの衝撃に思考がフリーズする。三木殿とデート? デートって好きな相手とするものじゃないのかな? 俺は確かに三木殿が好きだけど、それが三木殿にバレて……?
「もしかしてこれが、くりすます・でーとというものなのか?」
「なんでそこだけすぐに分かるの、ミッツ!!」
 その後も、光国と三木殿はいろいろ言い合っていたけれど、だんだん頭がぼんやりしてきて、ふたりが何を言っているのか俺にはよく分からなかった。いくつか質問されたような気がする。なんだったかな? 思い出せない。ポケットの中に入っている変な味のする飴。あれのせいだろうか。やっぱり三木殿にあげなくてよかった。
「オボ郎、大丈夫?」
 三木殿が心配そうに声をかけてくれる。そんな顔をしなくても俺は大丈夫だよ、三木殿。でも、こうやって三木殿に名前を呼ばれるのは、「……好きだ」。
 そしていきなり、光国のびっくりするくらい大きな声が響き渡った。
「わっはっは! よく分からんが、ふたりは真剣に交際しているということだな!!」