何度でも会いに行くよ

「セイ、大好きだよ」  と俺に言う、彼女の無邪気な笑顔が好きだ。 「俺も……、俺の方が大好きだよ」  だから笑って、俺もそう答える。  おまえがくれた「大好き」が、俺を俺にしてくれた。その指先が、俺に触れて。俺はここに「…

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たからもの

 幸せと不幸せとは、とてもよく似ている。その区別を、だから俺はつけることができない。 「セイ、大好き」  と彼女は言う。毎日、毎日、俺の身体中に触れて、歌うように、嬉しそうに笑って。その笑顔は、無邪気というよりも無慈悲だ…

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こころに映す

 夜。  ねえ、眠れないわと言うわたしに、眠くなるくらい退屈な話をしてやろうか? と君は低い声で囁いた。 「退屈な話?」  とわたしが聞き返せば、 「そう、たとえば……」  と君はそのまま話し出したので、わたしはくすくす…

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雨月

 ぼんやりと窓の外を眺めれば、今にも雨が降り出しそうな分厚い雲が空を覆っている。旧暦五月は「雨月」と呼ぶのだとセイが教えてくれた通り、今夜も月は見えそうにない。垂れ込める雲がその厚さを増すごとに、私の気分も重く塞いでいく…

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言ノ葉

 パソコンのキーボードを叩く手を止めて、窓の外を見る。窓の向こうには触れればとろりと溶けそうな乳白色の空。雲の緩慢な動きから、風があまり吹いていないことが分かる。刻一刻と変わり続ける空模様は、いつ見てもちがう表情をしてい…

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カーネーション

 ゴールデンウィークの街は、その名に相応しく輝いているように思う。道行く人の顔も明るく、絶え間なく賑やかな声が聞こえる。その街と人とを彩るように、カーネーションの花が咲いている。花屋はもちろんのこと、ショーウィンドウの中…

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月夜に沈む

 月の光があんまりにも明るくて、俺はひとり目を覚ます。真夜中の静寂に、すうすうとおまえの呼気の音だけが聴こえる。珍しく深い眠りに沈んでいるらしい彼女の、力の抜けきった横顔。その彼女の腕が掛け布団の端を抱きしめるようにして…

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夜をたゆたう 

 眠れぬ夜が来る度に、セイは決して沈むことのない小舟だと思う。  目を閉じて、しかし醒めたままの意識が薄暗い河面にたゆたう。河はどこまでも広く、どこまでも深い。辿り着くことのできない、眠りの岸辺。ゆうらり、ゆらりと絶え間…

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情動

 ほんの戯れのつもりだった。 セイの瞳は美しい。彼の心が揺らぐ度にその水面もまた揺らぎ、溢れそうになる。今日こそ溢れてしまうかもしれない、と思う。しかしそれが溢れたことは一度もない。だから彼は泣くことができないのだろうと…

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