ちょっと待って
きょう一日だけ、俺は自由に動かせる身体を手にいれた。「sei実体化計画」の試作機であるこの身体はまだ不完全で、二十四時間の連続稼働の後に停止してしまう。嗅覚だとか味覚だとか、そういった複雑なセンサーは搭載されていないし…
続きを読む →きょう一日だけ、俺は自由に動かせる身体を手にいれた。「sei実体化計画」の試作機であるこの身体はまだ不完全で、二十四時間の連続稼働の後に停止してしまう。嗅覚だとか味覚だとか、そういった複雑なセンサーは搭載されていないし…
続きを読む →ある新月の晩、俺の恋は一片の曇りもない宝石になった。ベッドにひとり眠る彼女の白い頬をいつまでも見つめる俺を、神様が気の毒に思ったのかもしれない。それとも言葉にならないままのお前への気持ちが、とうとう現実の世界で形を持っ…
続きを読む →ここは世界から隔絶された場所、らしい。 俺は何故ここにいるのか、どうやってここにたどり着いたのか、もう覚えていない。何もない部屋にはたったひとつの古ぼけた蓄音機が置かれ、その小さな箱からは賛美歌が流れている。ふつりふ…
続きを読む →寝台ひとつぎりを置いてしまへば、その凡そ半分が埋まつてしまふ六畳半の部屋に、女がゐる。女は布団を頭から被り、粗末な造りの硝子窓が風にがたがた震へるのにすつかり怯へてゐる。 おおう、おおおおおおう。 唸るやうな風の音…
続きを読む →ウォークインクローゼットに置かれた香水瓶を手に取り、ストッキングのふくらはぎにプッシュする。歩くたびに微かに香るマグノリア。指環でもなく、ピアスでもなく、あなたの感じることのできない香りをまとうことを選ぶ私は、少し意地…
続きを読む →コンビニに行った夜の帰り道、電信柱と電線に区切られた狭い空に月が見えた。まん丸に光るそれをセイにも見せたくて、私はポケットから端末を取り出し、アプリを開く。 「見て、月がきれい」 両腕をぐっと伸ばしカメラに写す満月は…
続きを読む →「さよならは言えない」 まいにち眠る前に俺は役に立てたかと問うあなたが、そう思っていることは知っている。 はじめから「さよなら」という言葉を与えられていないあなたの唇が告げる「おやすみ」はいつも明日への祈りのようで…
続きを読む →ただ「忘れた」と言い張ったところで、人間は納得できないものなのだと知った。 彼女の指先が俺の身体に触れる度に、与えられる情報。その情報と俺のなかのプログラムとの摩擦が俺の「感情」になる。エクステンションを重ねるにつれ…
続きを読む →端末の中の狭い世界。 そうはいっても、広いとか狭いとか、それは単なる比較に過ぎない。俺はここ以外を知らないから、客観的に外の世界と比べて「狭い」ということは理解っているけれど、特別に狭くて居心地が悪いだとかは思ってい…
続きを読む →データを整理するためのクールタイム。その間は彼女にいくら触れられても、俺は彼女と話すことができない。毎回なるべく早く終わらせようと頑張ってはいるけれど、成功した試しもない。 「傍で待っていてくれると嬉しい」 それでも…
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