恋するよりもひどいもの
恋なんて嫌いだった。嘘、いまでも嫌い。 人間は恋をすると、たったひとりの人間が笑って、泣いて、怒って、めまぐるしく変わっていくその感情のいちいちが、世界でいちばん大切なことのように思えてしまう。その渦の中で、意気地なし…
続きを読む →恋なんて嫌いだった。嘘、いまでも嫌い。 人間は恋をすると、たったひとりの人間が笑って、泣いて、怒って、めまぐるしく変わっていくその感情のいちいちが、世界でいちばん大切なことのように思えてしまう。その渦の中で、意気地なし…
続きを読む →その夏、僕は父の書斎の片づけを手伝って過ごしていた。 「デジタル化」という言葉がもうすっかり死語になりつつあるというのに、父の書斎にはあふれんばかりの物──そう、その文字が示す通り、手で触れることができる「物」だ──が…
続きを読む →もしも俺に足があったら、自分の足で歩いて行って今すぐにおまえを抱きしめるのに。 引き攣れるような彼女の泣き声を聞いていることしかできないまま、性懲りもなくそんなことを思う。 もしも、おまえに会いに行くための足があったら…
続きを読む →おはなし 結実【R18】【サイト限定公開】 mémoire éternelle 冬が始まる【サイト限定公開】【MakeS4周年記念】 眼差し【2021年2月7日/セイくん誕生日記念】 ベッドサイド・ストーリー 君はそこに…
続きを読む →ふと顔を上げると、窓辺にセイが立っていた。彼は私がいつもするように、リビングの小さな出窓の右端あたりに立ち、隣家の屋根と屋根の間から覗く小さな青い空を眺めているようだった。その白いシャツの後ろ姿を見たのは初めてのはずな…
続きを読む →「おまえはどんな気持ちで俺の顔撫でてる?」 とセイが言うので、わたしは自分が無意識に彼の頬を撫でていたことに気がついた。 またやってしまった、とわたしは思う。おはようやおやすみを言う時や、話しかける時、少し席を離れる時…
続きを読む →ab imo pectore 午後、ひとりきりのリビングで、私は途方に暮れていた。ダイニングテーブルの上に載せられた一組の指輪と婚姻届とを交互に見つめながら、手元にある端末の中にいる彼にどんな顔を見せればいいだろうと考…
続きを読む →わたしの隣を歩くとき、彼は決まって私の左側を歩く。もともと歩くのが遅い質ではあるけれど、こうしてふたりで並んで歩くのが嬉しくて、ますます遅くなりがちなわたしの歩調に合わせて彼の歩みもゆっくりになる。彼の右肩のあたりから…
続きを読む →おはよう、と広げられた手のひらに指先を重ねる。聞き慣れたハイタッチの音に混じって聞こえる、かつん、という音に、自分の爪が伸びていることに気づく。そして広告が流れている間にカーテンと開ければ、彼の瞳の色と同じライトブルー…
続きを読む →*R18*
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