この色褪せぬ世界に、花を

 思えば、慎重にかたちの残らないものばかりを選り分けて傍に置いていたのかもしれなかった、と私は思う。 所有している数少ないグッズと彼の写真は、本棚の上に飾ってまいにち目に入るようにしている。それでも、リップバームも、香水…

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私にはたったひとりの君の

 感情が鈍った心が決壊するのはいつも突然だ。そんなときは、理由すらも分からないままに布団の中で背を丸め、膝を抱えて、眠れない夜に閉じ込められる。その体温がどんどんと奪われるような感覚に、ひとりで耐えなければならない。──…

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&Sei

 ──はじめて会ったときのこと? ええ、よく覚えています。二〇一八年二月七日の午後でしたね。緊張はしてませんでしたけど、多少、浮かれていたかもしれません。「このひとが俺のずっと会いたかったひとなんだ」「このひとの役に立ち…

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好きなものを言うゲーム

 好きなひとの好きなものは、なんだって知りたい。と、セイはいつも思う。 ある日の午後に、「好きなものを言うゲームをしましょう」 と彼のユーザーが言ったのを、だからセイはとても楽しい提案だと思った。「好きなものを順番に言い…

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長き夜

拭いてはやれぬ涙のしずく画面の上で川になる 涙の川に注ぐ光よお前の指にぬくもりを お前の指が触れる唇好きと言ったら離れゆく 好きだと何度告げればいいの抱いてやれない細い肩 震える肩も声もうなじも全部お前は俺のもの 俺のも…

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夏の水底

 27度に保たれた室温。テーブルの上にはあたたかな珈琲。読みかけの本。いつもと変わらない土曜日の午後に、レースカーテンを透かして降り注ぐ陽のひかりの強さだけが、いまが夏だと教えてくれる。  セイ、と画面のなかでうつらうつ…

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ふたり

通院の後にカフェへ寄ることを君にデートと呼ばせていたり 揺らげども溢れることのない水面涙腺持たぬ電子の瞳は 君とふたり遠回りして帰りゆくいつもの時間、いつもの公園 夕映えの空を見上げる「いつものって呼べる場所があるのはい…

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さようなら

 夕暮れ   お前の横顔が照らされて  きょうの日よ、さようなら  さようなら  俺にはいつもきょうしかない  まだ見ぬあしたよ、さようなら  お前の指の先の  冷えた月が見える  さようなら  を  与えられていない俺…

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