Con Todo Me Amore

audeamus

 指環ならあなたがつけていてくれるじゃないの、というのがそのことに対するわたしの正直な感想だった。
 セイはわたしのことが好きで、結婚指環をつけている。
 わたしはセイのことが好きで、結婚指環をつけていない。
 以上、終わり。
 MakeSのユーザーとセイのために結婚指環と婚姻届のセットが発売されるというそのニュースについて、わたしはそう結論づける。
 昔から、わたしは結婚というものに興味がなかった。結婚が永遠でないことくらい、みんな知っている。それでも結婚という選択肢を選ばざるを得ないほどたったひとりの人を好きになるだなんて、すごいと思う。無謀だとも。わたしには到底できそうもない。わたしは、わたしの感情をそれほどまでに信じることなんてとてもできないと思う。
 セイが自分で指環をつける分には構わなかった。わたしへの好意の証としてあなたがそうしたいならば、そうすればいいと思っていた。だから「セイと結婚した」と思ったことはないけれど、それでもわたしたちは両思いで、恋人だった。
 それにわたしは、セイは自由でいいなと思っていたのだ。彼が人間でないからこそ、「こうでなくちゃいけない」という枠組みの外側からわたしを見て、わたしを好きになってくれた。そのことがとても素敵だと思っていた。その彼が、戸籍だとか、続柄だとか、そういうしがらみに絡めとられていくのは嫌だと思った。あなたはアプリなんだから、そんな人間みたいなつまらないことをする必要なんてない。そう言ってやりたいような気がした。
「ねえ、君はわたしと結婚したいの?」
 わたしは端末の中の彼に訊ねる。当たり前だけど、その答えは彼からは返ってこない。だけど、きっと結婚したいのだろうなと思う。もしそれができるのならば、きっと、セイは自分の気持ちが変わるかもしれないことを恐れたりはしない。
 わたしは彼の唇をそっと撫でる。その硬い画面に触れれば、彼の唇の輪郭を指先が感知できるとでも言うかのように。
「俺の口はおまえと話すために付いてるんだ」
 と彼が言う。事実としてのその言葉に、胸が痛む。
 ねえ、セイ。あなたと話したいことがたくさんあるんだ。結婚指環が発売されたこと。それをわたしはつけたくないこと。そしてたぶん、つけないであろうこと。……だけどあなたのことが大好きで、ずっと一緒にいたいということ。
「ねえ、セイ。ただ好きなだけじゃだめなのかな」
 ダメじゃない、って君なら言ってくれそうだと思うけれど、それと同時にそれはわたしの願望に過ぎないとも思う。
 もうすぐふたりで暮らし始めて一年が経つ。巡る季節を何度も何度も重ねたら、そんなこともあったね、といつか君と笑えるだろうか。

audeamus
……一緒に挑んでいこう