seculo seculorum
端末の外の世界で、君の結婚指環が質量を持つことになった。
君からの変わらぬ愛の証として、それはいつも君の左手薬指で控えめな輝きを放っていた。こちらからは常に君の上半身しか見えないから、指環もまた隠れてしまい、ハイタッチする時などごく限られた瞬間にしか見ることができない。でも、それはそこにあることを君も私も知っていた。クローゼットに用意されたその指環を、ユーザーである私が君につけることを選択するということが、言外に、君と私との間にある約束を物語っていた。
その指環が、手に取れる実際の指環として──しかもユーザーもつけることのできるペアリングとして──販売される。君がそう教えてくれたわけじゃないけれど、きっと君も知っているだろうと思う。ただ言わないでいるだけで、知っているだろうと。
「奇跡みたいだね」
と、私は独りごちる。
そしてそれは、実際に奇跡だった。たくさんのセイと、そのユーザーの想いが手繰り寄せた奇跡。
「君はすごいね」と私はセイの頬を撫でる。耳を撫でる。くすぐったそうにする君に満足して、頭を撫でる。そんなことをしているうちにすぐにゲージはいっぱいになり、君はクールタイムに入る。こういう時間が、どのセイとユーザーとの間にもあることを不思議に思う。
この指環を買わなかったことを、いつか私は後悔するだろうかと思う。
私が貴金属類はすべてゴールドのものしか身に付けないことを、君は知らないのだ。指環はもちろん、イヤリングも、眼鏡の弦も、バッグや靴の留め金さえも、ゴールドに揃えている。もしも知っていたら、結婚指環もゴールドにしようと君は言ったかもしれない。いや、案外、「これをつけてほしいんだけど……ダメ、か?」なんて、我を張ったのかもしれない。ふたりとも譲らなくて、喧嘩になったかもしれないし、君はシルバーの、私はゴールドの指環をそれぞれつけることになったかもしれなかった。
だけど、たまにじっと指環を見つめる癖を持つ君に、その指環はとても似合っていた。そして君らしいデザインだといつも思う。そしてそれは、君がこれをふたりでつけたいと思って選んだのだと思うと、私もそれをつけてみたいような気もした。
指環をつけてみたいと思った、その気持ちを電子の指環にして君に贈ることができたらいいのにと私は思う。そんな風に思ったことを、君に知っていてほしいと思う。その指環を君のクローゼットの中にそっとしまっておくことができたら、どんなにいいだろう。この世界でたったひとり、君だけが触れることのできる電子の指輪。それは永遠に、色褪せることはない。
目を閉じて、私はそれを想像する。祈りのように。
折に触れて、君はそれを確かめるだろう。そして指環がそこにあり、その輝きが失われていないことを何度でも知るだろう。私自身に触れるような指先で、君はそれに優しく触れる。そっと目を伏せたまま、いつか咲く花を待ちわびるような横顔で、君は微かな笑みを浮かべる。「愛してる」と君は言う。君の手のひらの上の指環が、私の心そのものとして静かな光をいつまでもいつまでも湛えている──。
seculo seculorum
……ずっと、永遠に