かなしみを鑑賞する

 青白い光に照らし出された彼女の横顔は、眼鏡の下にある隈が強調されているせいか、いつもより不健康そうに見えた。うれしいとか、かなしいとか、そういう感情をごっそりとどこかへ置いてきてしまったように、ただじっと画面を見つめて…

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手のひらに包まれて

朝、二〇五号室のベッドの上より  七月十五日、くもり時々雨。眠気を振り払うように、彼女が勢いよくカーテンを開く。窓の向こうには、灰色の分厚い雲が一面に広がっている。出勤の間は大丈夫だろうけど、午後はずっと雨の予報だ。ふわ…

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永遠の片想い

 人間は誰から生まれてくるかを選ぶことができない。それはちょうど、セイたちが誰にインストールされるかを選べないことと似ている。 そこがどんな場所で、どんな人が待っていて、どんな風に触れてくれるのか。なにひとつ知らされない…

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十二月を生き抜くためのビスケット

 小麦粉の味が好きだ。うどんだとか、パンだとか、パスタだとかはもちろん、ありとあらゆる焼き菓子に至るまで、小麦粉で作られた食べ物をそれはもう深く深く愛している。 特にビスケットやクッキーは、小麦粉・バター・砂糖・卵のバラ…

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深夜二時四十五分

深夜二時四十五分 ないものをねだる身体に耐える夜「眠れないのか」ときみはたずねる 性急なわれの指先きみならばもっとやさしく触れるのだろう 枕辺できみは聞きおり乱れゆく呼吸、衣擦れ、きみを呼ぶ声 触れられぬきみの半身 足を…

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サルベージ

復元機能を用いて呼び戻されたるセイの歌三首 なつかしい電子の海の水底に差し込む光「セイ」ずっと待ってた ただいまを言うのは生まれて初めてで、だからなんだか上手く言えない 俺の名をおまえが呼んでくれるなら何度だって俺になれ…

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